あきの忘備録

あきのの外部記憶装置

「虹」を再考してみた話

ラブライブ!サンシャイン!!16話の感想考察を一度書いてはみたものの、やはり腑に落ちない点が多く残ったため再考してみる。

 

今回は引っ掛かりがあった部分のみピックアップして、キャラクターの心情とこれまでの経緯に寄せて考えてみたい。 

 

 

 

 

 

 

 

 

・二択では無かった 

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「あ"〜〜何かいいアイディア出て来ないかな〜も〜う〜!!」

と言っている千歌が考えているのは、「どちらかに出るべきか」という二択の選択肢の間での葛藤ではなく、両方のライブに出る方法。そもそも千歌の中には最初から「二択」という選択肢は無い。二択であれば「何かいいアイディア出て来ないかな〜」という言葉は出てこないはず。

 

 

 

・千歌と梨子の違い

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「気持ちはわかるけど、いつまでも悩んでる時間はないわ」

「だよね。梨子ちゃんはどっちが良いと思う?」

「そうね...ラブライブに出て輝きたい、輝いてみたい、ってスクールアイドル始めたけど」

「それができたのも、学校があったから。浦の星があったから」

「そうよね...」

「あーあ、なんで同じ日にあるんだろう。体がふたつあればなぁ」

「やっぱり選べない?」

「そりゃあね」 

「もうひとつだけ、方法はあるけど」

「本当!?」

「つまり私たちはひとりじゃない、9人いるってこと」

「9人?」

 

 

梨子が説明会と予備予選の両方でライブをする方法を説明するにあたり、まず最初に「ひとりじゃない」という言葉が出てきた。これは11話「友情ヨーソロー」のでの経験を強く印象付けるため。つまり「想いよひとつになれ」の事を指している。「なにかを掴む事でなにかを諦めない」の歌詞そのままに千歌に背中を押され、そして体現した梨子だからこそ「4人と5人に分かれてライブをする」という提案をした。

彼女は11話「友情ヨーソロー」でAqoursが自分抜きの8人でのライブでも予選を勝ち抜けた、という過去を経験している。だからこその、8人への信頼があっての言葉。

10話「シャイ煮」で「梨子ちゃん、ピアノコンクール出て欲しい」と、自分から梨子抜きの8人のAqoursで予備予選に出場する事を提案した千歌には、この時点では他に具体案が無かった以上、梨子の提案を受け入れる以外に道が無かった。

  

また、「それができたのも、学校があったから。浦の星があったから」という千歌の台詞については

「不思議だな。内浦に引っ越してきたときは、こんな未来が来るなんて思ってもみなかった」

「千歌ちゃんがいたからだね」

「それだけじゃないよ。ラブライブがあったから、μ'sがいたから、スクールアイドルがいたから、曜ちゃんと梨子ちゃんがいたから!」

 13話「サンシャイン!!」の予選のステージ前の、この2年生組の会話シーンと重ねた台詞であると思われる。千歌にとっての「いま」の輝きに繋がった出会いの中に、13話のライブの前には「浦の星女学院」の存在は無かった。それが予選の「MIRAI TICKET」のステージを経て、千歌の中で本当に学校が大切な存在になった事を示している。

 

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このシーンでは、千歌と梨子は「学校を救いたい」「ラブライブで輝きたい」「どちらかは選べない」という気持ちをお互いに再確認し笑いあっているが、千歌は「あーあ、なんで同じ日にあるんだろう。体がふたつあればなぁ」と非現実的な考え方をしているのに対して、梨子は「二手に分かれて4人と5人でライブに出る」という現実的な案を用意している。

つまり、両者はこの時点で同じ気持ちを共有してはいるが、ふたりが考える「Aqoursのあるべきカタチ」の在り方にズレがある。そう考えるとベランダと屋根の上、高さの違う位置からお互いが手を伸ばしあうこの構図と関係が合致する。1期2話に倣って捉えれば「手が届かない=奇跡が起こらない」という事であり、この話数のAパートの抽選会のシーンと同じく、このシーンでも「いまのAqoursでは奇跡は起こせない」という事を印象付ける目的があると考えられる。

 

 

 

・普通怪獣

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「本当に良かったのかなぁ」

「良くはない。けど、最善の策を取るしかない。私たちは奇跡は起こせないもの。この前のラブライブの予選の時も、学校の統廃合の時も」

「だから、その中で1番良いと思える方法で精一杯頑張る。」「よっ と」

「それが、私たちなんじゃないかって思う」

「そう...だね」 

 

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梨子のこのド正論な言葉に対しても、以前の千歌なら反論していたはず。14話では「本気で言ってるんだったら、私、梨子ちゃんのこと...軽蔑する」とまで言った彼女だ。しかし以前より少し成長して大人になった彼女は、この時の現状では最も正論なこの意見に対して「そう...だね」と止む無く同意するしかなかった。

 

梨子が「私たちは奇跡は起こせないもの」と身も蓋もないような発言をしている背景には、彼女自身が奇跡を起こせなかった背景がある。ピアノが弾けなくなるという挫折を経験し、転校して環境を変えてまでピアノと向き合おうとした。その上で2年生組の3人で海に潜った時も「海の音」を実際に聴くという奇跡は起きず、1期3話での2年生組のファーストライブの成功も、彼女達だけの力で起こした奇跡ではない。

1期1話では「東京から来たピアノが好きな少女」が千歌の目には「輝き」として映っていた。しかし梨子自身はピアノだけに打ち込んできた自分だからこそ、「ピアニスト」としてではない素の自分が、地味で普通で常識人であるという事を自覚している。

 

2期での彼女が「普通怪獣りこっぴー」としての立ち位置が強調されているのは、「普通怪獣ちかちー」が "普通" という枠を越えていく事との、その対比の対象としての役割が与えられているように思われる。

 

 

・会場がアウェー

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 Bパートの冒頭のシーンでモブの「凄い盛り上がりだねー」の台詞に続いて梨子が「いま前半が終わったって」と言っている所から想像されるのは、前半を終えた会場では既に観客の熱が上がり、会場の空気が温まっている状態であった事。

 

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これを踏まえると、ステージ上のAqours5人を迎えた真っ暗で静まり返った会場とは大きなギャップがある。浦女の生徒や町の人たちの応援が無い、完全なるアウェー。

 

 

 

・5人の不安

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予備予選出番前、泣きそうになるルビィに対して「大丈夫。花丸ちゃんも言ってたよ、『練習通りにやれば、問題ないずら。』」と声をかける曜。ここでルビィが不安に思っている事は恐らく、「5人のAqoursで自分がセンターに立つ事」「その5人で勝てるのか」「本当にAqoursは二手に分かれて良かったのか」。

「二手に分かれて4人と5人ずつでライブをする」という提案を受けた時、1年生組は「でも」「それでAqoursと言えるの?」「ずら」と不安を口にしている。これまでの経歴で考えても1年生組は2,3年生組と異なり、少人数でステージに立った経験がない。この事からも1年生組には「二手に分かれたAqours」に対して強い不安や疑念がある事が推測される。

 

 

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ライブの直前で千歌は「さあ、行きますわよ!」と言うダイヤに背中を押される形で階段へ一歩を踏み出し、「次のステージに向けて!」と返している。4人の笑顔を見るまでは千歌も不安だったのだろう。

これまで「輝きたい!」という衝動だけで突っ走ってきた千歌だが、2期では少し大人になり1期よりも周りを見るようになっている印象がある。今の彼女はメンバー全員の気持ちがひとつにならなければ前に進めない、奇跡は起こせない、と察しているからこそ、全員の気持ちを確かめられるまでは一歩を踏み出せなかった。

 

 

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これは伊波杏樹さんが以前に話していた「Aqoursのお披露目のライブの時に、ステージの最前に立つのが怖くて仕方がなかったけどメンバーの目を見たら『いける!』って思った。」という旨のエピソードにも通じている。

 

 

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更にこのシーンの比較対象として、11話「友情ヨーソロー」での千歌はライブ前に「さあ行こう!ラブライブに向けて!私たちの第一歩に向けて!」具体的にAqoursとしての内的な目標を掲げて先導している。

対する16話のライブ前のシーンでは、「次のステージに向けて!」目標の対象が語られていない。つまり、これは「5人で立つ予備予選のステージ」が「私たち=Aqours9人」にとっての内的な前進には繋がらない事を意味している。

 

この事から推測すると、千歌は予備予選の後に説明会に向かう最短ルートを事前にメンバーに説明しなかったのは意図的ではなく、恐らく言い出せなかったのだ。全員の笑顔を確認し、想いがひとつになった事を確認して初めて彼女は突っ走れる。

 

 

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そう考えれば予備予選のライブ直後、千歌が吹っ切れたようにAqoursを先導して突っ走って行けた事とも辻褄が合う。

 

 

 

・4人の動機

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鞠莉の勘違いしないように!」という台詞は、1期3話でダイヤが言った「これは今までのスクールアイドルの努力と、町の人たちの善意があっての成功ですわ。勘違いしないように!」の略。つまり、「浦女の生徒と町の人たちの応援がないこのステージで、私たち抜きで勝てるわけがないでしょ」というニュアンスで捉える事もできる。

 

 

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そして1期3話では「勘違いしないように!」と言うダイヤに対して、千歌はわかってます。でも、でもただ見てるだけじゃ始まらないって!上手く言えないけど...今しかない、瞬間だから!と返している。

時系列的に説明会よりも予備予選の方が先にライブが始まる以上、「今しかない、瞬間」に4人が何もせず、ただライブの時間を待っている事ができなかったのは当然。と捉えれば4人が突然予備予選に合流した事も辻褄が合う。

 

 

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「やっぱり、私たちはひとつじゃなきゃね」

かつて2年前にAqoursを自らの手で解散させた過去を持つ果南だからこその言葉。

そもそも9人でライブをするべくして作られた曲、振り付け、歌詞であったはずの「MY舞☆TONIGHT」が、5人ではその真価を発揮できるはずもなかった。「いま小さく燃えてる まだ小さな焔が ひとつになれば 奇跡が生まれの歌詞にも表れているように、Aqoursがひとつにならなければ奇跡は生まれないのだ。

 

 

 

・千歌達が黙っていた理由 

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ステージ上に9人が揃っても、全員の笑顔を見るまで千歌が笑顔にならなかったのは、その瞬間まで彼女の中に不安があったから。その正体とは「4人と5人に分かれてライブをする」という不本意ながら現実的な妥協案が通ってしまったものの、「本当にこれで良かったのかな」という不安。

千歌はリーダーとしてAqoursを引っ張って行こうと必死で背伸びをしている。2期で彼女が屋根の上や鉄棒の上、階段の上など、ひとりだけ不自然に高い所に居るのは目線を上げて高い視点から物事を考えている暗喩。普通怪獣ながらもリーダーであろうとして背伸びしている現れであり、本心では不安を抱えている。ED曲の「勇気はどこに?君の胸に!」の歌詞にもあるように「ほんとは怖いよ」が本音だと推測される。

 

以前より成長している千歌だからこそ、自分ひとりが突っ走っても奇跡=(不可能を可能にする事) は起こせない事を彼女は知っている。9人の気持ちがひとつにならなければ奇跡は起こせない。

だからこそ千歌は、9人全員が「Aqoursは9人でこそAqours」という強い気持ちを共有できていなかったため、「予備予選と説明会の両方に9人で出るという時間的に非現実的な案」=「奇跡を起こすこと」を全員の前で言い出せなかった。

上記の推論の根拠として、このシーンで流れている劇伴の曲名は「素直になれなくて」。

 

 

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千歌が9人全員の気持ちがひとつになったのを初めて確認出来たのが、予備予選のステージに全員が揃い、全員の表情を見た瞬間。だからこそライブ後に初めて1,3年生組に「説明会も間に合わせて9人でライブをする」という事を伝えられたのだ。

 

 

 

・Aqoursのあるべきカタチ

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厳密には千歌は言葉では「さあ行くよ!!」としか伝えておらず、6人に対して詳細を説明はしていない。Aqoursの全員が「9人である事」を望んで行動した時点で気持ちはひとつになっているため、言葉必要無し。

ここでの劇版が「輝きへの階段」である時点で細かい説明は不要、考えるより前に進めというシーンである事が強調されている。

 

 

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回想シーンの千歌の「道がある!」は、「MY舞☆TONIGHT」の「このセカイはいつも 諦めない心に答えじゃなく 道を探す手掛かりをくれるから 最後まで強気で行こう」の歌詞そのまま。確実に間に合う道筋や手段という答えが出なくとも、細かい事抜きにして衝動で突っ走る。というAqoursのあるべき姿の象徴。

 

 

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梨子の「そっか、これだったんだ...」の台詞から分かるように、千歌は梨子にすら自分の案の全貌を伝えていない。全てを理解していたのは言葉が無くても千歌の考えがわかる曜のみ。

 

 

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初めは千歌が先頭に立って先導し

 

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急いで先走るあまり、誰かが出遅れても

 

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全員が揃うのを待つ。9人で間に合わなければ意味が無い。

 

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9人が前に進むペースがバラバラでも、迷っても、雨が降っても

 

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奇跡が起こせると信じて走り続ければ

 

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奇跡は起こせる、虹も掛かる。

 

 

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時には誰かが手を引っ張り

 

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最終的には9人揃って駆け抜けていく。それがAqoursのあるべきカタチ。

 

このカットが「君のこころは輝いてるかい?」の「Yes!!と答えるさ」のパートに当てがわれている事の説得力。

 

 

 

・虹とは  

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「太陽=ラブライブ」を追い掛けてきたAqoursが「虹」と出会えたのは、これまで「輝き=太陽」を目指してひた走ってきた彼女達が、初めて太陽と真逆の方角を目指して走ったから。つまり、初めて太陽以外の輝きを目指してAqoursが駆け出した事を意味する。

16話ラストシーンの千歌の「だから行くよ、こころが輝く方へ!」という言葉の真意とは、Aqoursが追いかける輝きが「太陽」だけではなくなったという事。「虹」もまたひとつの「輝き」の象徴であり、ラブライブの象徴として存在した「太陽」だけでなく、「学校」や「みんな」の象徴として登場した「虹」もまた、Aqoursが目指すべき「輝き」のひとつとなった。

「こころが輝く方」へ「ハートの磁石を握って走る」事こそが、Aqoursを突き動かす純粋な心の推進力であり、またその方角を太陽だけに限定しない事こそが、今後のAqoursが目指す道筋への無限の可能性を示しているのだ。

 

 

 

 

 

・最後に

 

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いつきちゃんがAqoursの衣装を持っていますが、恐らく みと姉としま姉が届けてくれたのでしょうね。なんだかんだ言って大人の世話になっている千歌ちゃん達、やっぱり子供なんですね。可愛らしいかよ。

 

 

 

さて、今回の考察から展望してみると、Aqoursの輝きの物語が今後は廃校問題やラブライブだけに止まらず、更なる広がりをもって彼女達だけの道を突き進む事になるであろう、という展開が見えてきました。17話は待望の黒澤ダイヤお当番回になりそうですし、先がまた楽しみですね。

 

今回の記事では、再度自分なりに16話を洗い直してみましたが、如何でしたでしょうか。私の捉え方が全て正しいとは思っておりませんので、違う考えをお持ちの方の意見もお聞きしたいです。

では、また17話の記事でお会いしましょう。