あきの忘備録

あきのの外部記憶装置

みんなには私がいる!だから安心して!なんて推しが言うから泣きそうになったよな

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平日の夜だというのに、道玄坂の繁華街はごった返している。強気な身なりの若者が騒がしく行き交う、渋谷は実に居心地が悪い。

この街にはお呼びでないであろう私だが、今日だけは特別な用事がある。この街の歩き方もわからない私が、この先の道のりを躊躇わずに歩み続けていくための。

 

 

 

────くつひもの、結び方を知りたい。

 

 

 

 

 

斉藤朱夏1st ワンマンライブ「朱演 2019『くつひもの結び方』」

 

 ーセットリストー 

 

1. あと1メートル

2. くつひも(MC)

3. 誰よりも弱い人でかまわない

4. 糸(Cover)

5. コトバの魔法

6. リフレクライト

7. 明日はきっといい日になる(Cover)

8. しゅしゅしゅ(MC)

9. ヒーローになりたかった

〜EN〜

10.パパパ

11.くつひも

 

 

 

 

 

なにしろ居づらいのだ。

誰もが皆この街の住人であるかのように振る舞う往来は、肩身が狭い。午後6時のライブハウス「TSUTAYA O-EAST」の周辺は、同じTシャツを着て同じマフラータオルを首から下げた人たちが、路肩に身を寄せるようにひしめき合っていた。自分の整理番号が呼ばれるまで、先に入場していく人たちの安堵の表情をうらめしく眺める。

 

私の整理番号は収容人数の中ではかなり後半の台だったものの、入場してしまえばすんなり会場の中ほどに潜り込めた。「TSUTAYA O-EAST」のフロアには段差があり、1段上の後方フロアの方が視点が高くてステージが見やすいからだろうか。箱の中に所狭しと詰め込まれたファンの熱気は、開演が近づくにつれ上昇していく。

 

ライブが始まる前の緊張感が私は好きだ。ライブが始まってしまえば時計の針はぐいぐい回るものだが、それを待つ間はじりじりと時が流れる。ご馳走を目の前にしてお預けを食らっているようなこの時間は、期待で胸がざわつく。

開幕のスポットライトに照らされてステージに現れる推しの姿を想像してみる。あの子、満員の会場にぎっしりと詰め込まれたファンを見てどんな表情をするだろう。最初の曲は何かな、続くセトリは、ステージ演出は。MCはどうだろう。なにしろデビューミニアルバムを引っ提げてのファーストライブなのだ、何もかもが未知数。

彼女────斉藤朱夏」というアーティストを、私は尊敬や憧れの感情と共に、まるで自分の姪っ子のように愛おしく見守ってきた。お門違いな感情であることは自覚しつつも、そう。少しの不安に近いような、お節介な緊張感を抱いて開演を待つ。

ド真面目で責任感が強い彼女のことだから、きっとファンのことを想っての緊張と共に、同じ時を過ごしているに違いない。『8401』のリリースイベントでの彼女の、「すごく緊張して出てきたんですけど、会場の雰囲気も緊張した空気感あって」という言葉を思い出しながら、じりじりと時間が流れていった。

 

開演直前、諸注意のアナウンスの後に上がる歓声。しゅかコールが起こる。

彼女のファンはいつも元気だ、どのイベントに行ってもそうだがとにかく声が大きい。はやる気持ちを抑えてそれを見守る......FCイベントでゲストのおぎゆかちゃんが「朱夏のファンは元気だねー!」と感想を述べていたことを、私はなぜかうわの空で思い出していた。

 

 

 

そしてついに幕が開く。

眩い照明の中、ステージの中央でこちらに背を向けて立つ推しの姿。曲のイントロに被さる歓声が彼女の名を呼ぶ、私も声を上げていたのだろうか?

こちら側に振り返り、歌い始めた彼女の表情はどんなだったろうか。とにかく曲が始まったのだ、すごい勢いで一瞬一瞬が過去になる。生バンドの爆音が空間を突き抜けていく、意識が置いて行かれないように、ステージ上で赤い衣装に身を包んだ彼女に視線を釘付ける────。 

"朱演・斉藤朱夏" のファーストライブの幕開けだった。

 

 

 

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結論から先に言うと私は、 "くつひもの結び方" を知ることはできなかった。

 

彼女は "靴ひもの結び方" を今日まで考えてみたけれど、「みんなそれぞれが個性を持っていて、それぞれのくつひもの結び方がある」「だからそれでいい」というようなことをMCで話してくれた。

なるほど、「幸せの青い鳥は最初からここにいた」ということだろうか。彼女はこのミニアルバムを通して、自分とファンとの繋がりというものをずっと考えてきたのだと思う。 その気持ちをライブの中で表現し、届け、私たちがオーディエンスとしてリアクションを返す。そのライブという気持ちのやり取りの中で、彼女は自分が求めていたファンとの "繋がり" というものを確かめていたのだと、そう感じた。

 

心がほどけてしまいそうな日常の中で、私はそれを強く結んでくれる何かをずっと求めていた。もしかすると彼女ならば、斉藤朱夏ならばそれを教えてくれるのではないか、と胸の奥底で願っていたのだ。でも、それは間違いだった。

彼女が言っていたように、私たちは出会った時点で繋がっていたのだから。

 

 

 

縦の糸はあなた 横の糸は私

織りなす布は いつか誰かを

暖めうるかもしれない

中島みゆき『糸』より

 

「今日はいろんな糸で結ばれた皆さんに、私の大好きな曲を届けたいなと思います」との曲紹介のあとで、ピアノの旋律に乗せてしっとりと歌い始めたのは中島みゆきの『糸』のカヴァー。

彼女にとって初めてとなるカヴァー曲の披露で、自分以外の人の曲を斉藤朱夏が歌うことに意味のあるもの。ワンマンライブの中でカヴァーすることで斉藤朱夏の曲になるもの、という意味で、くつひもの文脈を汲んでの『糸』の選曲はいかにも生真面目な彼女らしく、そしてこのライブに相応しいものとなった。

アンコールで歌われた二度目の『くつひも』の曲前には「ここにいる君と運命の赤いを結びましょう!」というストレートなメッセージがあったり、しゅか通信にも「みんなと同じ気持ちってことにすごく嬉しくて 少しだけ緊張のがほぐれた瞬間でした」との言葉があったり。

"言葉を大切にしたものにしたい" "言葉で表現できるような作品を作りたい" という想いがミニアルバム製作の原点にあった彼女らしく、さりげない言葉選びの中にも込められた想いの強さが垣間見えるライブだった。

 

 

 

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さて、ここまで正座で書いてたのですが。この感じで長文書かれると読んでる人も疲れちゃうと思うので、私もライブのお話は、緊張の糸をほどいて書いてみることにします。 

 

 

 

「みんなに絡みにいきたくて」とライブ後のしゅか通信でも語っていたように、オールスタンディング形式でのライブ、彼女にとっても待望だったんじゃないでしょうか。私もオルスタ大好きなので、音楽に合わせて体を揺らせるのがとても楽しかったです。やっぱライブはこうでなくっちゃね。

なんですけど、あんまり視界は良くなかったのでよく見えなかったんですよね。なので残念ながら詳細なレポートは書けないんですけど・・・

 

オープニングから音がめちゃめちゃ良くて驚きました。ここ数年はドームやホールでのコンサートばかり行っていたので、あのサイズの箱はやっぱり距離感も含めて最高ですね。今まででいちばん推しが近かったです、これまで会場のスクリーンで見ていたのと同じぐらいの大きさで推しが目の前にいるわけですから。「おお、画面じゃなくて推しが3Dや・・・」とわけのわからない気持ちでした。

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で、今回なんと生バンドだったんですよね!ハヤシケイさんの手がけられてる楽曲、ライブ映えしそうだしバンド編成でやってくれねえかな〜とは思ってましたけど、まさかファーストライブからやってくれるとは。嬉しくて仕方なかったですね。なんかバンドメンバー全員女の子で、ガールズバンドみたいな編成でしたけど。フロントマンめっちゃ踊るけど。

バンドメンバーとも息が合っていて、チームワークにも信頼関係を感じてその空気感も◎。演奏めちゃうまくて、それはプロなら当然かもしれないですけど、とにかく音が本当に良かったです。ギターもところどころアレンジが入ってたり、個人的にはドラムがすごく気持ち良くて好みでした。

 

しゅかちゃんはもともとジャズヒップホップのダンスを得意としていただけあって、リズム感のセンスがズバ抜けてるなっていうのを今回改めて実感しました。生音に対するボーカルの乗せ方というか、アタックで強く来て欲しい所に気持ち良く音をぶつけてくれる感じ。リズム隊とも息が合ってて、それがまたしゅかちゃんの体を使ったパフォーマンスとの連動が凄い。

彼女は歌うように踊りますよね。もともと決まってる振り付けはあるはずなんですけど、それ以上に「こういう音を表現をしたい」っていうパッションが前面にじみ出ていて、その音楽性は本質的にジャズなのかもしれない。ライブを通した一連の流れの中で、感情が突発的にパフォーマンスとして音楽に昇華されているような印象を受けます。そのエネルギーの発露が天才的で、表情なんか見ててもめちゃめちゃ心動かされませんか。圧倒されるんですよね、あぁ、この人はやっぱ天性の表現者なんだって感じます。

 

しゅか通信でも「(私は)ステージに立ち続ける人間なんだと確信した」とその瞬間のことが綴られていましたね。国内最大級のキャパの数万人規模のライブを経験してきた人が、初めてソロで立つライブハウスのステージでその確信に至った。ファンとしては何よりも嬉しくて誇らしくなるお話です。

彼女がソロアーティストとしての目標として、目指している会場があると公言しています。それがどこなのかは明かされていませんが、今回のライブを通して目標のステージに立つ自分の姿をイメージできたのかもしれません。

声優としてステージに立つ場合、原則的にアニメのキャラクターのライブやイメージが先にあり、つまりそこに基準としての比較対象が存在するわけですが、ソロアーティストとして立つ未来のステージは、常に過去の自分との相対評価になります。ソロアーティストとしては走り出したばかりの彼女ですが、目標を見据えてそこに立つ自分を確信できたのならば、きっとどこまでも成長していくのでしょう。

 

 今回はアーティスト・斉藤朱夏にとってのファーストライブだったわけですが、その堂々たるパフォーマンスは圧巻のクオリティで、MC、立ち振る舞い、メンバーやファンへの気遣いも含めて、とてもファーストライブのそれではありませんでした。

横浜アリーナで彼女を初めて目にした時、この人は既に完成しているのではないかと思ったものです。しかし彼女は成長を続けている、一体どこまで伸び代があるのでしょうか。きっとこれからも、斉藤朱夏は私たちの想像を鮮やかに裏切ってくれるのでしょう。

 

 

 

 

 

 

もう少しだけ書きます。

 

「私はみんなに絶大なる信頼を置いていて、だから今こうしてステージに立ててるんだなと思います。これを機に、いろんな弱い部分もみんなにもっと見せていこうと思いました。弱い部分の私も受け入れてくれるかな?」 

今回のライブでの彼女の言葉ですが、私はけっこう衝撃を受けました。「信頼」なんて気持ちをファンに対して思ってくれてるなんて、言葉になりません。

以前の彼女は「誰が私のファンなのかわからない」と言っていたこともあり、大人気キャラクターの中の人を担うが故の苦悩があることを、ファンはなんとなく察していたのではないかと思います。

責任感が強く、他人には絶対に迷惑をかけたくない性格の彼女は、自分が心を許した身内に対してだけは甘え上手であるようです。そんな彼女がファンを信じて頼り、弱さを見せるとまで言っている。あかん、もっと好きになってしまう。そういうところやぞ。

 

また、自分のことが好きじゃないと常々インタビューでも話していました。かわいさを求められることに対しての抵抗は強かったようですし、今でもそれが全くないようには見えません。 しゅかランドが開演した当初も、ツイッターで自撮りを上げると拡散されるのが恥ずかしいから、とも吐露していました。

そんな彼女がライブでは「かわいいよー!(野太い声)」に対して「かわいいって知ってる」と返していた(二度も)のは、感慨深いものがありました。これ、自分がかわいいって自負してるのとは多分違うんですよね。おそらく "みんなが私のことをかわいいって思ってることを知ってるよ" という意味だと思うんですね。 "ちゃんと届いてるから安心して、大丈夫だよ" って意味だと思うんですよ。

彼女は自分のファンがどれぐらいいるのかわからない、という疑心暗鬼と自己否定を乗り越えて、ソロでの様々な活動を通して「ファンから愛される自分」を受け入れ、肯定するに至ったのだと思います。

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彼女はソロでの活動以外でも、会場に来られないファンのことを気にかけたり、ライブビューイングに向かって声をかけたりと、ライブで目の前にいないファンにまで気を配る配慮をしてくれる人でしたが、そこには作品を背負って立っているという責任があると同時に、向こう側には "作品のファン" がいるという前提は少なからずあったはずです。

今回のライブでは、台風の影響により開催が延期になり日程変更で来れなくなってしまったファンのことや、チケット抽選に漏れてしまったファンのことを気にかける言葉が何度もありました。

ソロ活動における彼女のファンとの関係は、「ファンが作品を通して私を想ってくれている」から「ファンが私を想ってくれている」にシフトしたことで、彼女がファンの目線で考える時のロジックは「みんなが私を好きである」という前提に基づくものになります。つまり、彼女にとっての "信頼" とは、「ファンが絶対的に私を好きでいてくれることを信じる」という意味での "信頼" なのだということ。

いや、そんなの長文を書き連ねるまでもなく当たり前のことなんですけど。これまで彼女の活動をずっと見つめてきた経緯を踏まえると、色んな思いを乗り越えてまた器が大きな人になりましたね、と思うわけです.......。

 

MCの中で「私はプライドが高くて」と打ち明けてくれたのが、私はわりとほんとに嬉しかったです。自分でプライドが高いなんて言ったの初めてなんじゃないでしょうか。当ライブのナタリーのレポートでは、この発言は書かれていませんでしたけれども。

「『くつひも』には私の弱さや不器用さが込められていて」というMCは、バースデーライブ『8401』の時にも全く同じことを話していましたよね。自分が他人に見せたくない内面をさらけ出すことって、すごく勇気が要るし簡単にできることじゃないと思うんですよ。

これを読まれてる皆さんはだいたい大人だと思うので、お分り頂けるんじゃないかと思うんですけど。大人になると、歳を重ねるごとに無駄なプライドだけ高くなって、内面を見せたり弱さを認めたり、できなくなっていくんですよね。

だからこそ、それを乗り越えて本当の意味での勇気と強さを見せてくれた彼女が、めちゃめちゃかっこよくて。やっぱり憧れと尊敬の思いは深まるばかりなんです。私にとって斉藤朱夏本物のヒーローで、それはもうずっと前からそうですし、もちろん今ではもっとそうです。

 

斉藤朱夏ちゃん、かっこいいのにかわいくて、ちっちゃいのにきれいで、明るくて楽しくて、おばかで面白くて、やっぱり好きですね。

ライブが楽しかったって話しを書くつもりだったんですけど、なんか違う話になっちゃいましたね。ライブは最高でほんとに楽しくて、音楽がよくて、お衣装も素敵で、お歌がまた抜群にうまくて。なんと言っても元気が出て幸せになります。

ありがとうしゅかちゃん、またライブ行きたいです。

 

 

 

 

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帰宅してから靴と靴下の合わせが推しとおそろだったことに気付いた図。

明日はきっといい日になるって推しが言ってた。

くつひも、結んでいこう。