あきの忘備録

あきのの外部記憶装置

私の のぞみ

彼女は実に潔かった。

 

ラブライブ!フェス初日の締めとして各グループの代表が挨拶した時、伊波さんは感極まった様子で何も取り繕うことなく「最高でした!」と一言だけ。

その一言だけあれば、もう他になにも言葉は必要なかった。観客やキャストを含めた全員が彼女の言葉に深く頷いたことだろう。実に簡潔で飾り気のない、いつもの彼女らしくなくて、それでいて本来の彼女らしいMCだと思った。

いつだって伊波さんは言い訳をしない、少なくとも私が知り得る範囲では。ステージ袖から出てきた彼女は今にも決壊しそうな様子で、「スノハレの余韻が...」と言っていた。きっと誰よりもその目であのステージを見届けたかったであろう彼女は、どんな心持ちでステージ裏のモニターと対面していたのだろうか。

この数年間で彼女を始めとしたAqoursキャストに、自身とラブライブ!の関係にどれほどの苦悩があったのかは計り知れない。「好き」という気持ちを原動力にすることは、言葉で言うほど容易いことではなかったはず。その気持ちが仇となって自らに牙をむくこともあったかもしれない。

「自分の好きな気持ちに嘘をつかない」は伊波さんが何度も口にしていた信条だったと記憶していて、好きなものを好きで居続けることの難しさもライブのMCで語られていた。だからこそ、5thライブで伊波さんが「この先もずっとAqoursを好きでいてくれますか?」というような問い掛けをした時、私たちはきっとありったけの声で肯定を叫んだのだと思う。

 

 

 同時に、私はμ'sファイナルのライブのことを思い出していた。

 

 

 

 

♪♪♪♪♪♪♪♪

 

 

 

 

「ずっと好きでいてくれますか?」

私はあの時LVのスクリーン越しに約束したのだ、μ'sを、ラブライブ!を好きで居続けることを。またいつか会えると信じてその名を呼び続けることを。いや、私が勝手にそうすると決めたのだ。そんな未来がいつか来る、などという安易な希望的観測は持てなかったし、その後もそんな予定調和が訪れる気配は微塵もなかったけれど。

 

 

 

────ただ、そう信じたかったのだ。

 

 

 

 

 

やがてμ'sファイナルのブルーレイが発売されるも、ひとりで観る勇気がなかった私は友人 (その当時はまだ友人と呼べるほどの関係ではなかった) を集めてブルーレイの鑑賞会を行った。ファイナルライブに現地参加していた彼らの思い出話はとても眩しくて、羨ましかった......。

そんな彼らが「Aqoursのライブに行きたい」と話すのを聞いて、私は思ったのだ──それも良いかもしれない と。もしかするとその先の未来でラブライブ!がずっと続いていけば、μ'sが再びステージに立つ日に巡り会えるかもしれない とも。当時はラブライブ!サンシャイン!!の中の人にはほとんど興味がなかった私だが、とにかくAqoursのファーストライブに行くとその時密かに決めたのだった。

 

結果として、その翌年に行われた『ラブライブ!サンシャイン!! Aqours First LoveLive! 〜Step! ZERO to ONE!!〜』は私にとって初めてのラブライブ!現地参加となり、その2日間の衝撃的な体験で私の人生は大きく変わることになる。

巨大な何かに突き動かされるかのように、ラブライブ!サンシャイン!!を巡って私の運命の輪が回り始めた。空っぽだった私の人生に、とてつもないパワーと熱量を持った得体の知れない何かが入り込んできて、自分の中のギアが動き始めるのを感じた。

 

それからの日々の全てを、私はラブライブ!と共に生きた。

 

 

 

 ⛵️

 

 

 

運命が動き出してから約3年が経った2020年1月18日、私は初めて埼玉スーパーアリーナを訪れていた。噂に聞いていたμ'sの4thライブと同じく、雪の降る日だった。

東條希推しの私にとって、ラブライブ!2期8話はとても大切な回だ。運命めいた何かを感じずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

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ラブライブ!2期8話より



 

 

 

 

 

結論から先に言うと、μ'sは、東條希は実在した。

 

見紛うこともないあの姿は、紛れもなく東條希だった。

不思議なことだが、それまでずっと自分の中にだけ存在していたはずの東條希は、間違いなくステージの上で歌い踊っていた。アニメの中で見たことのある姿と全く同じだった。不思議なことだが、東條希は実在したのだ。

 

初めて肉眼で捉える9人の姿はあまりに現実味がなく、聴き馴染みのある『僕らのLIVE 君とのLIFE』のイントロが流れ始めても、彼女たちが本当にμ'sなのかどうかがわからなかった。いや、μ's以外の何者にも見えないのだが、目に映る光景が果たして現実であるのかどうかが疑わしい。ほとんど呆然としたままライブが始まった。

2曲目の『僕らは今のなかで』のイントロで、見覚えのある9人の後ろ姿がスクリーンに映し出された。その瞬間、猛烈な実感と共に私は完全に理解した。これはμ'sのライブなのだ、夢にまで見た本物のμ'sのライブがいま目の前にあるのだ、と。

 

奇跡を見ているのだと、思った。

 

ユメノトビラ』で涙が溢れた、なんていい曲なんだ。いや、違うユメノトビラはアニメが放送されたのを観た時から大好きな曲だったはずだ。よく知っている曲だ。それなのに、こんなにも素晴らしい。μ'sがいまこの場所で歌ってくれるユメノトビラは、何もかもが違う。数え切れないほど聴いてきた曲なのに、初めての感動を味わっていた。なんて贅沢で幸せな時間なのだろう、大好きな曲を大好きな人たちが歌ってくれるというのは......。

ラブライブ!のライブは通い詰めて来たはずなのに、まるでライブ初心者のような感覚だった。それほどまでにμ'sのライブは、トロッコの上で披露されていようとも圧倒的にラブライブ!の感動を教えてくれるものだった。

 

Snow halation』は東條希推しの私にとって、特別な曲だ。

深い理由はない。希にとって大切な曲だから、私にとっても同じように大切なのだ。それ以上に何か理由は必要だろうか。あの曲を歌い踊る東條希が好き。あれほどまでにμ'sのみんなで作るラブソングにこだわった彼女が、控えめに後列に位置するフォーメーションで歌い踊るならばその姿を見届けたいと思う。それが私の希望であり必然だ。

もはや、自分でも説明のしようがない涙が溢れた。

きっと私は嬉しかったのだと思う、あの姿をこの目で見ることができたことが。『Snow halation』を歌い踊る彼女が実在することが、ただただ嬉しかった。

落ちサビでオレンジ色に染まる会場の中で雪が舞い、雪の中で踊るμ'sの姿があまりに美しくてただ、見惚れていた。"『Snow halation』のライブ" は目の前に在った。きっとあの光景を私は忘れないと思う。

 

 

 

 

🍊 

 

 

 

 

私自身はまるで奇跡だとすら感じたが、伊波さんの「奇跡だよ!」という言葉を聞くことは2日間で一度もなかった。

奇跡それは今さ ここなんだ
みんなの想いが導いた場所なんだ

『KiRa-KiRa-Sensation!』が披露された以上必要のない言葉だったのかもしれないが、真意はわからない。奇しくも歌詞が全てを物語っていたようにも捉えられる。

ただ、このフェスが実現したこと自体は奇跡ではないということを、本当は私は知っている。無謀な航海に乗り出し、自分たちの力で途方もない苦難を乗り越えてきたAqoursの、これまで積み重ねてきた努力の結晶としてラブライブ!フェスは実現したのだから。無論AqoursだけでなくSaint Snowが表舞台に立ち続けてくれたことも、虹ヶ咲スクールアイドル同好会が苦境を乗り越えてラブライブ!の一角を担う重役を背負えるようになってくれたことも、μ'sが葛藤を乗り越えて再始動してくれたことも、全てのスクールアイドルの努力の成果として、夢の舞台はあんなにも輝かしいものとして実現したのだから。

まるで奇跡のような光景に辿り着くまで、言うまでもなく多くの人の血の滲むような努力の日々があったはずで。だからこそ伊波さんの「私たちはμ'sが大好きです!ラブライブ!が大好きです!」という言葉に、私たちは掛け値なしに本物の輝きを感じ、深く胸を打たれたのだと思う。5thライブでの「私たちの始まりはラブライブ!が好きって気持ちだけだった」という言葉を、きっと多くの人が思い出したことだろう。 

ラブライブ!フェスというこの幸いな日を、不可能だと思っていた夢の舞台を、好きという気持ちの一心で実現させてくれた彼女たちに感謝と尊敬の念が尽きない。ただただ、ありがとうという気持ちが溢れてくる。

 

 

 

 ❄️

 

 

 

私にとって最初は「Aqoursのライブに行ってみたい」「もし叶うならμ'sに会いたい」という願いから始まった夢は、いつの間にか「みんなが笑顔で手を取り合う光景が見たい」に変わっていたのかもしれない。

2日目の終演で3グループが両手を繋いで挨拶をした時、久保さんと鈴木さんが手を繋ぐ所がスクリーンに映されているのを見て、「ああ、私はこの瞬間をずっと待ち焦がれていたのだ」と本当に幸せな気持ちで満たされた。スクールアイドルのみんなが笑顔で手を取り合ったとき、私たちもまたきっと笑顔になっていたと思う。

 

 

 

μ'sとAqoursはお互いに公に干渉することを禁じられ、ラブライブ!というコンテンツの中でファン同士がいがみ合い、ラブライブ!のファンであることを公言することさえも躊躇われるような過去があった。「好き」という気持ちで繋がれるはずの人同士なのに、どうしてもうまくいかない時期が続いて、私自身も多くの人を傷つけてきたし、そして傷つけられてきた。だからこそ、誰もが「好き」という気持ちを声に出し、お互いの「好き」という気持ちを尊重して認め合えることが、どんなに幸せなことであるかを私たちは知っている。

 

このラブライブ!フェスは、ラブライブ!にまつわる全ての「好き」という気持ちを肯定してくれるような場であったと思う。μ'sもAqoursSaint Snowも虹ヶ咲スクールアイドル同好会も、ラブライブ!が「好き」という気持ちを原動力に、それを表現して、発信してくれた。私たちファンもまたラブライブ!を「好き」という気持ちを再確認し、深め、そして直接その声を伝えることができる場だった。

 

 

 

 

長々と書き連ねてはみたものの、「ラブライブ!が大好きです!」というシンプルな言葉こそが全てだったのだ。いちばん大事なのはその「好き」という気持ちなのだと、ラブライブ!や彼女たちが教えてくれたのだと思う。

 

 

 

I live, I live LoveLive! days!!

 

 

 

これを言わせてくれたのは、ラブライブ!からファンへのプレゼントのようなものだったと思う。きっとみんなそう叫びたくて仕方がなかったはずだし、私も言えて良かった。何度もライブで聴いてきた曲だけど、ラブライブ!が大好きな気持ちをあの場で爆発させることができたのは、とても幸せなことだったな。

 

 

 

そして何よりも、μ'sに会わせてくれてありがとう、ラブライブ! 

あの時叶えられなかった夢が叶いました。

ありがとうμ's、ありがとうAqoursSaint Snow、ありがとう虹ちゃん。 

 

 

 

 

 

P.S. 

思い返せば、数年前のウチは引きこもってひとりでオタクしてて。無印ラブライブ!やμ'sを好きな気持ちもほとんど人と共有できなかった。だから、夢はとっくに......いちばんの夢はとっくに...